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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)737号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人三浦強一の上告理由は別紙記載のとおりであるが、要するに本件は住民が分離を決定する権利を有するものなりや否やが根本の問題である。そして所論附則第二条第一項には「……その変更に係る区域の住民は、……市町村の境界変更をすることができる。」とあり、一応住民に決定権があるようにも見えるけれども、右第一項では「本条の定めるところにより」の要件を附し、第五項では「……都道府県知事は、当該都道府県の議会の議決を経て市町村の廃置分合又は境界変更を定め、……」と規定しているのであつて、分離は住民の意思のみによつて決定されるのではなく県議会の議決をまつことを要するものと解すべきである。地方自治法七条は市町村の廃置分合、境界変更については、都道府県の議会の議決を経た後の知事の決定にかからしめるを原則とし、本件の附則二条の住民投票も右の原則をくつがえす程の趣旨を持つものとは解せられない。右の様に住民投票によつて分離が決定せられるのではないから、住民はその投票どおりに知事が分離を決定することを請求する権利を有するものではなく、従つて議会が分離を否決し、知事が分離しないことを決定しても、住民は(従つて上告人も)その取消を請求する権利を有するものではない。右の権利がない以上本訴請求が是認されないのは当然であつて、憲法三二条の問題ではない。右の如く請求が主張自体理由のない本件において、原審が訴却下の判決をしたことは上告人に対しては何等の不利益はない。訴却下は請求棄却よりは確定力の範囲が狭いものだからである。それ故上告は理由なきに帰する。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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